月: 2022年1月

これから銀行はどうあるべきか?

令和4年が始まりました。昨年10月に還暦になり、これからアウトプットをどんどん行うことを心に決めました。自分の思ったこと、考えていることをストレートに出していこうと思います。そして色々な問題提起をさせてもらいたいと思っています。

さて、銀行から融資を受けるという分野は、学校で教えてくれることはありません。また、社会人となっても、会社の経理部門や財務部門に配属されるか、自分で事業を営むか、または銀行やノンバンクに勤務し、事業者に対して融資審査をして融資実行する立場にないと、中々お金を頻繁に借入したり、貸付したりすることはないでしょう。もちろん、個人的にも住宅を購入するときに、住宅ローンを借入することはあるでしょうが、一生に一回のことであろうし、その審査は、ネットで申し込みし、システム的に点数をはじき、審査完了することもできるようなステレオタイプ的なものです。

しかし、事業者への融資の世界は、そう単純なものではありません。私は20年間銀行員をしていましたが、銀行の考え方は世間一般の考え方とは少しかけ離れた思考回路の中にいるような感じがしました。「世間の常識は銀行の非常識」とも言われることもあります。事業者が良しとすることが、銀行から見るとダメなことになるのです。もっと言うと銀行には一般のビジネスの世界とは何か違う商習慣が流れているのです。そして、これは私が銀行を離れて16年経過し、現在も色々な銀行員と話をする機会がありますが、その根底に流れる変なものは、未だに何も全く変わっていないと思います。また、そこで変に思うのは、どの銀行員と話をしても、ほとんどの話の内容が同じであるということです。それぞれの銀行は、違う企業であるのでその考え方はそれぞれ違うのが普通だと思うのですが、全ての銀行員の話のなかの考え方が一緒なのです。ゆえに、その「変な考え方」は業界全体に流れているものであると思います。

それでは、銀行業界に流れている「変な考え方」とはいったいどこから来るのでしょうか。私は、「偏見」・「自己防衛」・「傲慢」であるように思います。自分の考え方以外は間違っているという考え方です。産業界では、一番大事なのは、消費者、お客様のニーズや考え方を知ることが大切です。そして、そのニーズに応えることが売り上げに繋がっていくのです。お客様のニーズに合わせて自分が変化していかなければなりません。そうしなければ、どんな大企業でも厳しい生存競争に打ち勝っていけません。しかし、銀行の考え方は、銀行が考えた事業形態や事業運営が正しく、それ以外の組織形態や運営形態をとっている事業は理解せず、一方的に銀行の考え方を押し付けることが一般的です。その上その違う考え方を採用して間違えると銀行内部でマイナスになるという自己防衛が始まるのです。また、意識の根底には、いまだに「金を貸してやっている」という傲慢な考えが消えていないということです。そして、この考え方は、私が銀行に入った37年前からなにも変わっていないように見えます。

産業界が、お客様のニーズの変化に合わせてどんどん変化していくのですが、銀行はその変化について行ってないのです。ここが、日本の経済の停滞を招いている大きな原因になっているのかもしれません。しかし、そのような時代遅れの銀行でも、現在生き残っているのはなぜでしょう?私が考えるには、それは銀行が一般の企業と違った次のような特殊性を持っているからだと思います。その特殊性は

①銀行が唯一「預金」と「融資」の両方の機能を持っていること

②銀行業が金融庁の許認可業であり、そのことが参入障壁を高くしていること

③日本の中小企業の資金調達の手段が銀行融資に大きく依存していること

④アメリカでは一般的なエンジェルといったベンチャー投資家が日本にはいないこと

⑤生え抜きの経営者しかいないこと。(最近はⅯ&Aで生え抜き以外の経営者もでてきたが、結局これまで銀行にいた人間で考え方は大きく変化しない)

⑥なによりも失敗を恐れるマイナス思考の風土

などであります。

要するに、企業にとって生命維持にどうしても必要な「資金調達」を、許認可という壁に守られて独占的に行っている銀行が、自分の都合に合わせて融資の考え方を作り、時代の先を走っている日本の産業界がその考え方に合わさないと融資を受けられないという不幸なことが続いているということです。そして、それをいまだに業界横並びでずっと維持し続けているということなのです。これでは、日本の産業は育たないでしょう。日本にGAFAみたいな大きなゲームチェンジを仕掛ける会社がないのは、日本のこの金融システムが原因だといっても過言ではないでしょう。

では、これから銀行はどうすれば良いのでしょうか?

それは、去年の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公、渋沢栄一にあると思います。渋沢栄一が、今の日本の資本主義を作ったと言われています。そして、銀行も渋沢栄一が初めて日本に作ったのです。そのときどの様な考え方で銀行経営を行ったのかは分かりませんが、ひとつ言えるのは、今の銀行の経営者と全く違っているのは、渋沢栄一は、実業界で色々な会社を経営していたということです。よって、産業界のニーズが肌感覚で分かっている人物が銀行経営を行っており、少なくとも産業界との考え方とは、今のようにズレていない銀行であったのではないでしょうか。

おそらく、大正、昭和の戦争直後までは、銀行というのは今の銀行とは違った感じではなかったのではないかと思います。その理由は、私が大学時代に読んだ、高杉良の「小説日本興業銀行」という本の中にあります。興銀が戦後の日本経済を復興させるために自らリスクを取って民間企業と一緒になってプロジェクトを進めていく様子がまざまざと描かれています。その本を読んで、銀行とはすごくスケールの大きい仕事をするのだなと思ったことを覚えています。今の銀行は、そのような日本経済を支えていくとか、企業を支えていくとか、新たな産業を創造するとか、という理想は全くないのではないかと思います。自分自身のリスクを少なくすることばかりを考え、リスクを負わないけれども自身の収益には貪欲であるのです。リスクを負わないで、儲かる商売なんてあるのでしょうか?自分のお客様の話、考えを理解しようとせず、ひたすら自分自身の都合の良い方向にお客様を誘導しようとする異常な考えはもうやめて欲しいと思います。いまだに、「この投資信託を買ってくれたら融資が通しやすくなるんです」みたいな詐欺まがいのことを言う銀行員がいると聞きました。情けない限りです。実は、ひとりひとりの銀行員はそのことに気付いているのです。そこで、たまに自虐的に「私もそう思うんですが、中々変われないんです。」という人もいます。そうなんです、変われないのです。それは、私も銀行員時代感じました。

少し話が脱線してきましたので、話を元に戻します。さて、結論です。「これから銀行はどうあるべきか?」中小企業が日本の企業数の99.7%である日本経済にとって、銀行の役割は日本経済にとって非常に大きいものです。銀行は、日本の中小企業を支えるんだ、日本経済を支えるんだという気概を持つこと、そして新たな技術、アイデアに敏感になり、自らリスクをとってチャレンジしていく姿勢を持つことが必要です。銀行が自ら産業界より先を行って、産業界をリードして行って欲しいと思います。そのためには、様々な人材を各方面から集めることが必要です。今の銀行は、画一的な人材しかいません。銀行の経営者をいっせいに産業界から求めることが必要であると考えます。社会人になって銀行にしかいなかった人物では、この混沌とした時代では難しいのです。インターネットが発達したこの時代では、変化のスピードが過去とは比べ物にならないほど早くなっています。そのような時代に前時代的な考え方しかできない人物が経営者であると、その会社を潰すことになるでしょう。

私は、金融界と産業界が相互に人材を交流させていき、日本全体にお金がより効率的に回っていくシステムを作っていくことが必要だと考えます。これが私の結論です。銀行界側から産業界に人材を求め、銀行経営を託すことをやって欲しいと思います。そうでないと、何時までたっても銀行は変われないと思います。銀行はもう「ムラ社会」やめましょう。

以上